SWAN SONG

【対応機種:Windows ジャンル:アドベンチャー 発売元:Le.Chocolat】

 とある登場人物に『しあわせなの』と言わせるあたりからも確信できる、本の質量に裏打ちされた『小説のような物語』です。ゲームとして眺めたとき『現在の流行』からは距離がありそうな極限も描かれますが、一つ一つの場面の『切実な描写』に魅力が。

本サイトではLe.Chocolatより許可を得て、
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はじめに

 瀬戸口廉也さんのシナリオと、川原誠さんの原画のゲームに初めてふれたのは2004年5月14日(金)にS.M.Lから発売された『CARNIVAL』です。記憶をなくしてしまう『くせ』がある主人公『木村学』は屋上で発生した事件の容疑者として逮捕されるが、パトカーの事故により逃亡してしまう場面から始まるアドベンチャーゲームです。

 主人公のマナブだけではない『狂気の世界』と、登場人物が抱く『独自の価値観』が魅力で、キルタイムコミュニケーション発行の小説版を含めて一押ししたい作品です。金色夜叉研究というページを作ってしまうくらい熱中していまして、瀬戸口廉也さんが企画・演出も手掛ける『SWAN SONG』には、かなり期待していた次第です。

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ゲーム紹介と感想

 『SWAN SONG』は、2005年7月29日(金)にLe.Chocolat meets FlyingShineの名義で発売されました。突然の大地震に巻き込まれた大学生『尼子司』が、自閉症の少女『八坂あろえ』と出会って始まる、ノベル形式のアドベンチャーゲームです。

 文章は複数の視点から記述されます。司たちと教会で出会う『田能村慎』に加えて、同じ大学に在籍していた『佐々木柚香』『川瀬雲雀』『鍬形拓馬』の視点からも、そして途中から登場する『乃木妙子』の側からも展開していきますが、とある場面を除いて『誰か一人』の視点を中心にして進む形式を取っています。

 ゲームシステムは、基本となりつつある『マウスホイールによる読み返し』を含めて、ノベル形式に要求されそうな機能が一通り実装されています。登場人物の立ち絵は使用されず、全体に表示される風景に割り込む『カットイン』によって表情やイラストが視認できます。通常のイベントグラフィックとカットインが自然に組み合わされていて、ノベルとしての表現手法への『こだわり』が見受けられます。

 また、システムデザインには『さよならを教えて』などを手掛けている長岡建蔵さんの名前が記載されています。メニューや設定の文字表記は、かならずしも見やすいとは言いがたいですが『作品の構成要素』としては雰囲気ある仕上がりになっています。

 ストーリーは、パッケージの文章にある通り『絶望に試される』構図が描かれます。辞書の記述にあるように、希望がついえたことが絶望なのか『パンドラの匣』の話で耳にした『絶望を知らないから希望を抱ける』が適切か不明ですが『彼らにとっては、希望なんてものは、古くなったら履き替える靴のようなものにすぎないのです』という作中の言葉が指す『彼ら』とは違う、切実な概念として描かれていることは確実です。

 途中からの展開に理由を付けるとしたら、日本スペースガード協会が検討している『小惑星の地球衝突』しか思い浮かばないですが、明らかに自然災害から派生する『パニック』ではなく、そこに見える『人間模様』に力点が存在すると伝わってきます。

 私の場合、本来のヒロインと思われる女性『以外』へと肩入れしてしまったからか、最初の結末を『綺麗な彫刻』のように感じましたが、そこまでの過程を昇華させるには十分ではなく、それ以降についても同様でした。でも、遊び始めたという方に対しては『全ての』イベントグラフィックを埋めるまで読み進めるように薦めたくなる作品です。

 また、女性だけではなく男性陣も魅力ある存在として表現されていることも特色かと思われます。言動の是非はさておき、声優さんの演技とともに『迫力ある』描写として伝わってきまして、遊び始める以前には想像できなかった嬉しい収穫でした。

 本作では『理解できない考え方』が『狂気』への引き金となって、一人の登場人物が取り込まれていく過程が示されます。閉鎖環境にも誘発される心境の変化について、青空文庫でも読める『瓶詰地獄』のような小説は存在しますが、真実らしき事例では確認されていないため『人間』という、もろい『考える葦』への想像を巡らせました。

 ちょっと『物語に登場人物が動かされる』傾向は見えましたが、一つ一つの場面の『登場人物の心理』は見事で、ときどき見受けられた『長いセリフ』を許容できるなら、とんでもなく『悪趣味な演出』も含めて問題なく受け入れられそうな気がしています。

 そして、登場人物それぞれの描き方は『暗喩』が含まれていると思えるような要素が見受けられます。教会で視認される『象徴』とともに複数の解釈がありえそうですが、現実と結び付けて考えたくなるだけの力強さは、かえって唯一の回答を提示しているようには思えず『一人一人の捉え方』が存在しても不思議ではないと考えています。

 ちなみに『CARNIVAL』では小説版が『マナブとリサの物語』を補完していましたが、今回はテックジャイアンに収録された体験版『プレ・スワンソング』が、あろえの背景を哀しく描ききっています。本人が『哀しい』わけではないですが、Le.Chocolatで文章とイラストは『ショートストーリー』として読めるため、姉の壮絶な言葉を理解する上でもゲームとともに一読すべきではないかと思います。

 一通り遊び終えたとき、私は『長編小説』を読了したかのような錯覚を抱きました。絶望が渦巻いていた中でも、妙子と、彼女に付き従う女性との関係に『私の希望』を。

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